かねてよりアパートのオーナーさんとしてお付き合いのある方からご相談を受けておりました。アパートは木造2階建の自宅併用で築20年超えですが満室で管理状況も素晴らしく、敷地内の清掃はもちろん、庭木の剪定から修理・修繕の手配・支払まで、子に接するように管理の行き届いた優良物件です。

なぜ売りたいのか?自分の住まいはどうするのか?ここが一番のポイントです。何度もヒアリングして確認しました。独立しているお子さん方の家庭の事情(子供の誕生や進学)で、早いうちにまとまったお金を渡してやりたい、税金は経費として仕方ない(贈与税より相続税の方が安いけど)、自分の死後に兄弟喧嘩は避けたい(自分が仲裁できない)、前に見学した老人ホームへ入居を希望(具体的にはまだ)、子どもの世話になりたくない(費用も手間も掛けさせたくない)、入居者を追い出すことはしたくない(新築当初からの入居者もいる)、近所には亡くした夫の知人も多く関係は良好で暮らしに不自由はない、など。これらを総合して、よりよい暮らし・住まいを成立させることが目標であり目的となります。そういった住まい手(施主)からの要望や価値観を形にするのが建築や住まいの設計の原点でもあるのです。これを、不動産の観点にも応用していくのがベストなのです。

まず、不動産・建物としての資産価値を判断します。目標は、オーナーチェンジ(入居者がはいったまま所有者が変わる形の賃貸用不動産の売買)・投資物件としての売買(現オーナーを1契約者としたアパート全体の現契約・入居者との賃貸借契約の継承を条件)です。

土地は更地(アパート・建売用地として)の買値が高く築20年超えのアパート付売地の価格を超えると想定されることから、不動産流通的に考えれば普通は、アパート住人退去⇒アパート解体⇒更地にして売却の方が売主の直接利益も多くなります。が、オーナーの暮らしを考えると手っ取り早く飛びつくのは危険です。一般に老人ホームは設備・サービスがよいところほど高額になり入居一時金や維持費が心配なだけでなく、運営会社が変更となったり方針転換によって当初想定されたサービスを下回る可能性もあるのです。夢を壊すようで申し訳なかったのですが、オーナーさんに希望のホームを具体的に調べてもらいましたら、現在は運営が変わり空室ばかりで期待した活動などがされてなかったようでした。

不動産的に、一棟もののオーナーチェンジ物件はあまり出ません。新築時ならまだしも中古物件は大規模改修や設備更新など費用が掛かることが必至なので投資物件としてはあまり考えにくいからです。が、場所がよければ、建物更新が困難ならいずれ更地にして売却すればいつでも利益を生むことが可能です。そこがこの物件の最大のポイントでした。が生き馬の目を抜くような業界ではそんな悠長に待っている業者は極めて少ないと考えられました。10年以上先を見据えての売却になるからです。裏読みではありませんが売却先の狙いが業者か個人かによって販売方法も変わりますし、オーナー含めた入居者付きの条件がありますから変な業者・個人では困ります。

査定を行いながら、最終的に私自身が買主になる可能性も想定し、そのための融資の下話もすすめて募集図面と計画の打合せに入りました。当初の説明がピンと来てなかったオーナーも、具体的な計画となることで「夢のようなことね。実現できるなら」と乗る気になり、実は前から個人的に世話になっている方が不動産会社なのだと打ち明け、売るならその人に売ってもらいたいと聞いたので面談しました。知人が理解ある方とは限らないのですが、夫の古くからの知人という方はとても気持ちの良い方で、数カ月の間に査定価格を基準に私の買い取り希望価格を上回る若い買主を見つけてくださったのです。

契約成立後にお会いした新オーナーも理解が深く、人同士の繋がりなしでは成立しないことでした。「夢のよう」なことが実現できたのです。実現できる「奇跡」もあります。

損して徳取れとは言いますが、改修手間を惜しまず建物の維持管理を怠らなかった旧オーナーと、そのスピリットを継承し満室アパートを購入してゆくゆくは建物立替のために優良な取りを入手した若い新オーナーの先見がうまく合致した好例でした。売主・買主・宅建業者・税理士・司法書士らと連携を取り時間も手間もかかることですが、結果住まい手さんにとってよいよい方向へ導くことができればこの仕事をやってよかったと思い現在に至っています。

 

有限会社オリガミックアーキテクチャー